「初めてお前が医者に見える」


液体の落ちる速度を調節する横顔を見ながら、京極がため息混じりに言った。


「普段は年寄りばかり担当だから、若い人の血管は楽でいいね」


謙信先生はそう言って京極のすぐ横まで行き、同じ位の高さにある肩に右手を乗せた。


「おじさんまだ女のとこいるの? ま、大学的には研究費助かったみたいだけど」


従兄弟って事は、消えた京極の父親にとって甥に当たる訳で、女って……佐田さんのお母さんの事だろうか?

でも何だか違う感じがするし、研究費って何だろう。

いろいろ考えていたら、私の左手が持ち上がった。


「君、名前は? 電話番号教えて」


謙信先生が私の手を両手で持ち上げ、今にも引き寄せようとしていた。


「元は男だけどいいか?」


京極が謙信先生の手首を掴み、低い声でそう言うと、私の手はすぐに落とされた。