白に蔓延る、黒を視ていた。

パラパラとページを捲り、陳腐でつまらない言葉の羅列を、文字通り見ていた。

頭に入って来た文略は、文字に留まり理解を得なかった。

否、理解をしようと懸命に頭をフル活用するが、やはり文字は只の文字でしかない。

靄のように曖昧に浮かぶ情景を掴むことは難しい。頭の片隅に置き忘れた記憶を手繰り寄せようと躍起になるようなものだ。先の見えない終わりに愛想が尽きてしまった。

「はぁ…」

溜め息を吐いて見ていた薄い本を適当な場所に戻す。

小説もダメだったか。やっぱりあたしには向いてない。









           


コンプレックス








執着、固執。20年生きてきたがそんなものとは全く無縁な人生を送ってきた。

あれが欲しいと目を輝かせ何かをねだる事も無かったし、繊細な硝子細工を扱うように大切にしている物もなかった。

流行りのアニメや漫画、映画、ドラマ、歌、ファッション、小説、スポーツ観戦、どれも全滅だ。中身が詰まっていればそれなりに夢中になれるかと思ったが、何一つ惹かれない。つまりあたしはそうゆう人間なのだろう。



何故今更になってそんな事を気にし始めたかと謂うと、友達の心吏(しんり)が原因だった。

否、正確には心吏が細い指で燻らせている煙草だ。

「いつから吸い始めたの?」

なんとなく不意に気になって問えば、彼は困ったように笑って「えー?」と考え始める。その横顔を見て羨ましくなった。…やっぱり綺麗な顔をしてる。

恐らく一度も染めた事がないであろう黒髪と、スッと通った鼻梁。切れ長の目を縁取る長い睫毛。形の良い唇が咥えるタバコは、綺麗は彼にはアンバランスでどうしようもない違和感をあたしに覚えさせる。

「うーん。初めて吸ったのは14のときだったかなぁ?ま、ただの好奇心だよ」


「どうして吸おうと思ったの?」


はは、と笑ってみせた心吏に、また質問を投げ掛ける。再び首を傾げた彼は、「あ!周りが吸ってたから?」と考えながらも答えているようだった。


「ふぅん」


つまりは、そういうことなのだ。

きっかけとは何でもいいわけだ。

彼は同じ銘柄の煙草ばかり買っている。それしか吸わない。いつだったか、売り切れだとコンビニの店員が申し訳なさそうに云うのに、露骨に絶望した彼は深夜にも関わらずコンビニを梯子した。「この世の終わりじゃあるまいし」思わず笑ってしまったら1カートン煙草を買わされた。


「沙羅(さら)もさ、吸ってみる?」


食わず嫌いは良くないよ。