手を振り返し叫んだ私に、洸君は驚いた表情で足を止めた。

「頑張って、洸君!」

 住宅地の静けさに轟く声。洸君は焦ったように人差し指を口の前にして「シーっ!!」と言い、私も我に返り口を噤む。

 あまりの恥ずかしさに泣きそうな私とは裏腹に、洸君は声を出さずにお腹を抱えて笑いこけていた。

 私は恥ずかしいのを誤魔化すように膨れっ面をしてみる。すると、洸君は手を合わせてごめん、ごめん、と口を動かした。

 続けて何かを喋っていたけれど、口の動きでは何を言っているのか判断できなくて、もう一回言ってというジェスチャーを見せる。

 でも、洸君は頭の後ろに手をやると首を振って、なんでもないと答えていた。

 その様子が気にはなったが、もう恥ずかしいのはごめんだと、門の中に入り、彼に手を振った。そのまま遠ざかっていく洸君の背中を見送って、見えなくなっても少しの間、その場に立ち尽くした。

 キラキラ輝く王子さまだと思っていた洸君。そんな王子さまにだって悩みがあって、傷ついて、不安になって。

 知らなかった彼を知る度に、私の気持ちは留まることを知らない。

 立花洸君…………洸君……。

 彼が私の名前を呼ぶ声を思い出して、一気に体温が上がった気がした。私は冷静になろうと頭を振って、玄関を開けた。