夏の夜風は、私の火照った頬を撫でるだけで冷ましてくれない。

 落ち着きなく前髪を触る私に、立花君は……

「ありがと」

 顔を上げると目が合った。

 私の大好きな笑顔と。

 その笑顔にまた好きを重ねて。

「あと、よそ者じゃないだろ?璃子ちゃんは、ユイと俺のダチなんだから」

 ドクン、と一番大きな鼓動が、私の中で響く。

「いやぁ、なんかさっ!彰さんも万里子さんも柊さんのこと名前で呼んでて、羨ましかったんだよなぁ。だから、俺も名前で呼ぶことにした!」

 ダメ?と、呆然としていた私の顔をのぞき込む立花君。私の心臓はもはや爆発寸前、タイムリミットはほぼゼロ。

「い、良い、です」

「やった!じゃ、俺のこと洸って呼んで」

「無理です」

「え、即答!?なんで!?」

 そんなの、今の私には免疫が無さすぎるから。けれど、分かりやすくしょぼつく立花君が可愛くて、つい笑ってしまう。

「ん?呼ぶ気になった?」

 首を横に振れば、また同じ顔をする。