「なんでフルーツ・オレ?」

 訝しげな表情のユイちゃんの問いに答えないで、席に着いた立花君は不意にこちらを見て優しく笑った。

「これ、好きでしょ」

 高鳴り出す胸は苦しくて困惑するばかりなのに、同じくらい心地よくて、勘違いしそうになる。

 その他大勢の、ただの通行人としてじゃなく、柊璃子という私の存在をちゃんと見ていてくれてるのだと。

「あ、ありがとう、立花君」

「どういたしまして」


 彼は天ぷら蕎麦の天ぷらを先に食べて、ユイちゃんに「食べ方のバランス悪っ」と批難されていた。

 それから、出汁まで飲みきった後に平然とジュースを飲んでも、また「よく平気な顔できるよね」と、もはや宇宙人でも見ているかのような目で見られていた。

 ……確かに、天ぷらだけ先に食べるのは後々の蕎麦が寂しいし、出汁の味広がる口にジュースを流し込むのは少し(だいぶ?)抵抗があるが、立花君とお昼ごはんを一緒に食べられるなんて夢のような一時。

 私は始終舞い上がって、空でも飛ぶんじゃないかという空想をしては、そうならないように足が床から離れないようにしていた。

 もちろん、いつものポーカーフェイスは崩れていなかった、と思いたい。