速川さんのお父さんはわざとらしく肩をすくめ、使い終わった道具なんかを片付けて奥へと引っ込んで行った。

「お父さんに、憧れてるんだね」

「……うん、父親としてはどうかと思うけど、美容師としては尊敬してる。母ちゃんも父ちゃんの腕に惚れたんだって言ってたくらい」

 速川さんのことを知れば知るほど彼女が好きになる。素敵な女の子、私の、憧れ。

「美容師になれるといいね、私、いつでも速川さんの練習台になるよ」

「ありがと……ねぇ、柊さんって呼びづらいから、璃子って呼んでいい?」

「も、もちろん!!」

「じゃ、私のことも結奈って呼んで?それかユイでもいい」

 彩音以外の誰かを名前で呼ぶことが久し振り過ぎて困惑する。そんな私に「いや、無理はしなくていいけどさ」といくらか寂しげな声。

「ユイっ……ちゃん、て呼んでも?」

 上擦ってしまった声が恥ずかしくて、顔がすごく熱い。

「OK!ちゃん付けで呼ばれるなんてそうそうないけど、新鮮でいいや」

 そう言って笑った彼女の顔がぼんやりしか見えずに、真剣にコンタクトにしようか迷った。こういうとき、不便だもんな。