すぐ近くで聞こえた声に驚いて振り向くと、速川さんが「お待たせ」と言って僅かに口角を上げた。

「わ、私は別に、立花君のこと、なんとも……」

「でも、柊さんさえも立花信者だったなんて」

「立花、信者?」

 私の言葉が耳に入っていない様子の彼女のその言葉に首を傾げる。

「あいつの見た目に騙されて拝んでいる女子のこと。あいつの本性は女子の憧れる優しくて紳士な“おうじさま”でも何でもない」

「ど、どうしてそこまで言い切れるんですか……!?」

 なんとなく立花君を貶したような言い方に、私の語気が強まってしまう。速川さんは少しだけ驚いた表情をして、それからふっと表情を和らげた。

「そんなに立花が好き?」

「だ、だから、私は別にっ……」

「ま、いいや、私についてきて」

 くるりと背中を向けて歩き出す速川さん。なびく彼女の髪がさらさらと揺れて、私は振り回されていることに気づきながら誘われるまま速川さんを追いかけた。