返す言葉を無くして戸惑っていれば、どこかからか帰ってきた田原さんが教室に入ってきた。彼は「約束、忘れずにね」と言ってすぐに私から離れて行く。

 ぽかんと立ち尽くしたまんま、その後ろ姿を見送って、ふらふらと覚束ない足をなんとか動かし、教室から廊下に出れば、突然肩を捕まれていた。それでもぼうっとしながら振り向くと、ユイちゃんと眞壁さんがそこにいた。

「しっかりして、璃子」

「ね、ね、立花、なんて言ってたの!?」

 数回、瞬きを繰り返し、今さっきの出来事を頭の中で再生、一瞬後、顔から火を噴き出していた。

「よそ見なんてせずに……」

『俺だけ見てて』

 耳に残った彼の声と言葉に物凄く、とてつもなくドキドキして、それ以上は言えなかった。眞壁さんは続きが気になるとばかりに私の肩を揺さぶって、ユイちゃんは何か分かったように安堵のため息のような吐息をついていた。

 今のは夢じゃないよね?不安になって、手の中の写真に目を落とす。そこには確かに、私と洸君が並んで写っていた。