本当はお父さんのせいじゃないのは分かっている。自分がぐずぐずしていたからだ。

 私は靴を脱いで自分の部屋へ向かう。が、

「悪かったね、声かけてしまって」

 リビングの扉を開けようとしていたお父さんが、ぽつりと呟いたのが聞こえた。

「ううん……おかえりなさい、お父さん」

 目尻にシワをつくって笑うお父さん。身長は高いのに猫背で、気が弱くて、父親の威厳のいの字も伝わらないけど、お母さんがお父さんを選んでくれて良かったなと思う。

 私にとって理想の夫婦像は両親だ。

 お母さんの話だと、お父さんとは大恋愛の末に結婚したらしい。あくまで本人の言ったことで、お父さんは呆れたように笑っていたけど、良いなぁと思う。

 私も好きな人と結婚を……と、洸君を思い浮かべて、一人で恥ずかしくなる。

 笑ってる顔、イタズラな顔、真剣な顔。触れ合った洸君の手や肩の感触。階段を踏み外しかけて助けてくれた時に知った、しっかりした体躯。

 思い出すだけで頭が逆上せるようにクラクラして、部屋に入ってベッドにダイブする。

「好きすぎて変になっちゃう……でも、好き」

 長いため息を吐くと、なんだか眠気に襲われて私はそのまま目を閉じていた。

 その日見た夢は朝起きると忘れてしまったが、とても目覚めが良くて幸福な気持ちで包まれていた。