「どうしてそんなにつれないんだ」

「それなら前にも言ったわ。私には好きな人が――」

「そんな話聞きたくない」

セレイアは内心ひどく焦っていた。というのも、さきほどから全力で逃れようと力を入れているのに、びくともしないからだ。

彼は生粋の武人だ。

体の自由を封じる術を心得ているに違いない。

半ばパニックに陥りながらも、セレイアは平静を装って鋭く言う。

「いいから、放して。殴るわよ」

「殴れるものなら殴って見ればいい。
そうだ、この気持ちをもっと伝える術が、ひとつだけあるな……」

嫌な予感がした。

とてつもなく嫌な予感が。

ゆっくりと、セレスの顔が覆いかぶさってくる。

「……!!」

その先に待つものに、セレイアは恐怖をおぼえた。

「いやっ! はなして! はなしてったら!!」

全身全霊で暴れているのに、全然体が動かない。

このままでは…!!