思いも寄らない出来事に、セレイアは狼狽したが、レティシアはセレイアの腕を引いて私室の中へと入って行ってしまう。自然、セレイアも私室の中へ足を踏み入れた。

淡いピンクとレースを基調とした、かわいらしい、レティシア王女にぴったりの家具調度の部屋だ。

レティシアは部屋を横切り、テラスへとセレイアを案内した。

「見てごらんなさい」

「え………うわあ………」

目の前に広がる景色に、セレイアはしばし絶句した。

眼前に広がるは、―――

サティエイトが誇る空中庭園のすべて。そしてその向こうに広がる、果てしない雲海と、その合間からのぞく地上の緑。

吹き抜ける風が、空中庭園の花の香りを運んでくる。

「この眺めが気に入って、わたくしの部屋にしていただいたのよ」

「すごい眺めですね……」

さすが王女殿下の私室と言ったところだ。

「でも、どうしてこの景色を私に?」

セレイアが不思議に思って訪ねると。

レティシアはぷいっとそっぽを向き、頬を染めながら小さくこう答えた。

「わたくしたち…
友達に、なれるかも、知れないからですわ」

「!!」

この澄ました姫君の言葉とは思えなかった。

セレイアは嬉しくて、頬をほころばせた。

「何言ってるんですか。
もうとっくに…友達に、なっていますよ」

「………!
―――――…。
そう、ね」

レティシアがまたとびきりの笑顔を見せてくれた。

自分などではなく、この姫君がラピストリに選ばれればいいと、心から思った。