「ディセル! お願い! 風がだめなら、実体化させるしかないわ!」

「…わかった!」

ディセルはすぐさま腕をかざし、命じた。

「霧よ、カタチとなれ!」

その声に応じて、あちこちで、霧が凝縮しはじめる。

しかし、今までとは決定的に違うことがあった。

一体ではなく、あちらでもこちらでも、次々と霧虫が現れ始めたのだ。

広場に十数体の霧虫。

それでもまだ足らずに、霧は漂ってくる。

(どうすればいいの! この数、私一人じゃ相手にできない!)

非常事態と見て取った騎士たちが、いっせいに広場になだれ込んできた。

そのどさくさにまぎれて、客席からも広場に飛び降りてきた者がいる。

彼は手近な霧虫を、突き出した腕から迸る炎で、焼き尽くした。

「っしゃああ! やっと俺の出番だぜ!」

サラマスだ。

彼の強さなら、きっと霧虫に対抗できるはず。

「サラマス! どんどんやっちゃって!」

セレイアはそう叫びながら、周囲に目を凝らした。

絶対にいるはずなのだ、彼が。

そしてこの事態を収拾するには、彼を見つけ出し、倒すしか方法がない。

セレイアは叫んだ。

「ヴェイン! いるなら出てきなさい! 相手になってあげるわ!
それとも私が怖くて、出てこられないかしら!?」

こんな安い挑発に乗ってくれるかどうか。

セレイアがいちかばちかでさらに言い募ろうとした時、空から笑い声が降ってきた。