綱から解き放たれても、青幻獣はしばらくその場から動かなかった。

ただじっと、その理知的な輝きを宿す瞳で、三人の候補者たちをみつめている。

いや、“見定めて”いる。

間違いなく。

青幻獣とはいったい何者なのだろうと、セレイアは思う。

聖なる存在。神々とも、関わりのある存在なのだろうか。

そんなことを考えていると、レティシアが、一歩前に出た。

「青幻獣よ。わたくしを選んでください。
必ずや、よき女王として人々を導いて見せます」

堂々とそう告げるレティシアを、青幻獣はじっとみつめる。

けれど、動こうとはしない。

観客たちも固唾を呑んで見守っている。

流れる沈黙に、人々が焦れてきた頃だった。

最初に異変に気付いたのは、セレイアとディセル、そしてトリステアからの客人たちだったと思う。

どこからか流れて来て、目の前に停滞しはじめた、黒い霧。

それはあっというまに広場を包み、人々の視界を淀ませ始めた。

人々がざわつく。「なんだなんだ」と言い交し、手元で霧を払おうとするも、かなわない。

「大変! “霧”だわ!」