(俺、なんであんなこと…)

ディセルは、与えられた豪奢な客室で、一人頭を抱えていた。

昨夜、舞踏会からセレイアを連れ出して、それで―――

セレイアがセレスとの仲を否定してくれないから、つい我を忘れた。

セレイアの柔らかな唇の感触。一度触れたら、止まらなくなった。

何度も唇を重ねたことを思い出し、ディセルは赤面する。

ちょっと思い出すだけで体がざわめく。

口づけしたことは、後悔していない。想いを伝えたかった。その気持ちを否定したくない。

後悔しているのはそのあとだ。

(なんで挨拶だなんて言っちゃったんだ……)

天上界の挨拶だなどと、口から出任せなのだ。

あの時言うべきセリフは、もっとほかにあったはずだ。

好きだと、言えばよかった。

けれど、言えなかった。

拒絶されるのが怖かったのだ。

絶対に拒絶されると、わかっていたから……。

ディセルは自分の弱さにうんざりして、頭を抱えているのだ。

(挨拶だなんて言ったら、絶対、嫌われるじゃないか。もう絶対嫌われた。ああああなんてバカなんだ俺は!)

セレイアの平手打ちはかなりの痛みとなって心に残っている。

セレイアを救い出すにはどうすればいいのだろう。

こんな状態で、本当に彼女は自分についてきてくれるだろうか?

最終試練の日は着々と近づいてきている。

もうあまり時間がないのに…。

(あああ俺のバカ、バカバカバカ…も、もうだめだ……おしまいだ)

ディセルは悶々としながら、ベッドに突っ伏すのだった。