「ええ。おかげさまで、無事、女の子を産みましたわ。名前はユレイア。セレイア様に似た名前がいいなあって思って、うふふ」

「ユレイアちゃん……は、今どこに?」

「トリステアの夫のもとに。育児で大変な時期にまかせっきりになってしまって申し訳なくはあるんですけれど、今回の大巫女様の訪問は、新しい女王候補とも言葉をかわせる、国家間のこれからの友好に大きく関わるものだと聞いて、いてもたってもいられなくて志願しましたの。産休なんてしてるひまはないのですわ~」

なんという肝っ玉。

セレイアの涙はいつのまにか引っ込んでいた。

「ところで、驚きましたわよ。ディセル様からだいたいお話はうかがいましたが、まさか女王候補になってしまっているなんて」

「それが、いろいろあってね……」

積もる話もあるのだが、先ほどから監視の騎士たちの目線が鋭い。

セレスが殴られた場面は見られずに済んだようだが、トリステアの客人であるフリムとこう長い間話し込んでいては怪しまれる。

「フリムたちは、女王候補の最終試練まではここにとどまるのよね?」

「はい、そのつもりです」

「だったらまた、この空中庭園に来て。いっぱい話したいことがあるから」

「わかりましたわ」

別れ際、フリムはそっと、セレイアの手に何かを握らせてきた。

「これ、仲直りのお守りです。
大好きな人と喧嘩してしまった時、これと同じものを自分で縫い上げてから謝ったら、必ず仲直りできるんですよ。ぜひ、時間があるなら縫ってみてください」

「フリム…ありがとう」

同じパレスの中に、大好きなフリムがいてくれると思うだけで、なんだか勇気がわいてきた。ディセルにも、今までよりは簡単に会うことができるだろう。

(よし! お守りを縫おう。そして、謝ろう)

そう心に決めて、セレイアは空中庭園を後にしたのだった。