深い深い闇の中、暗黒鏡がきらりと輝いた。

それはすべてがくろがねでできたこの漆黒の空間に、来訪者を告げる合図だった。

闇に沈む玉座の上の人物の背後、この広間の天井までも届く巨大な暗黒鏡が、すべてを映し出す。

来訪者がゆっくりと玉座に歩み寄り、こうべを垂れる様も。

身じろぎもせずにそれを迎える、主の姿も。

広間の天井―彼らの頭上は一面ガラス張りになっているが、空は闇のように漆黒で、月もなければ輝く星ひとつ見えなかった。

「なぜ殺さぬ、ヴェイン」

ひざまずいた来訪者に、主が底冷えのする冷たい声を浴びせた。

「私を裏切るか」

「めっそうもございません、閣下」

顔半分を仮面で覆った深緑の髪の少年ヴェインが、落ち着いた声音で答える。暗黒鏡が光ったのは、わずかな灯りが彼のこの仮面をとらえてのことだ。

「少々厄介な邪魔が入っただけのこと。
この度こそは必ず仕留めて御覧にいれます」

「ふむ。早よう、スノーティアスを殺せ。失敗は許さぬ。よいな」

「…かしこまりました」

「去ね」