【慎也side】

彼女の話を聞いて、強い憤りを感じた。

どうやら友達に、俺が“叶恵のせいで女装大会に出るはめになった”と言ったと
吹き込まれたらしい。

無論、俺はそんなことを言ってない。

だっておかしいでしょ?

優勝して、叶恵になんでも言うこと聞いてもらうって意気揚々してる俺が、

大会嫌だ、なんて言う?

まあ確かに、最初は嫌な気持ちもあったけどさ。

とにかく、叶恵に変なこと吹き込んだ
挙句、泣かせた奴。

叶恵の話で、だいたい目星はついてる。

……里中 新奈。

ちょっと一発、あの人にも泣いてもらわなきゃなんないな。

と、思ったんだけど……。

「雪島く…サトニー、傷つけないで…」

姫にこんなこと言われちゃ、泣かせる
なんてできるワケない。

念のために理由を聞いてみるけど。

「サトニー、友達だから……仕返し
なんて、やりたくない……。雪島くん
にも、やってほしくないの……」

……まあね。

でもこのままだと、本格的なイジメに
発展しかねない。

恐らく里中は、俺と叶恵の仲を引き剥がしたいんだろう。

理由は……まあ考えればわかる。

俺が言うと自意識過剰になるから、
あえて言わないけど。

にしても、こんな遠回しな小細工しないで、直接ぶつかってくれば良いのに。

あーあ、どうすれば……。

「ふんっ!!」

____バチン!!

!?

え、何……今叶恵、自分の頬叩いた?

スゴい赤くなってるけど……。

「か、叶恵?どうし……」

そこまで言いかけて、俺はハッとした。

叶恵は、何かを決意したように上を
向く。

その瞳が、あの日……俺に前を向かせたときと同じように、キラキラしていた。

頬に残る涙の跡、まだ消えてはいない。

だけど、叶恵の表情はもう違う。

「……ちゃんと話す、サトニーと」

「……うん」

「で、させる!」

「……うん?」

させるって、何を?

尋ねる前に、放送が鳴り響いた。

〈まもなく、第2種目の借り物競争が
始まります。生徒は準備をお願い
します〉

「雪島くん、ごめんね……ありがと!」

____ドキン

あーもう……そんな明るい笑顔でそんなこと言われたら、たまったもんじゃないよね。

走っていく彼女を見て、俺は熱い顔を
俯かせながら追っていった。