白雪王子と白馬のヒメ

「ああ、お義母さま…なぜ、私を見捨て
たのですか?私はただ、愛と自由に
包まれて、幸せに生きたかっただけ
なのに……!」

演技なのに、力が入る。

違う、演技だから、力が入る。

白雪姫の気持ちが、痛いほどわかる。

誰か、私を助けて……!

「っ……!美しい……」

ステージの陰から声がする。

王子が、こちらを見て息を呑む。

「どうされたのです?お嬢さん、何か
困ったことでも?」

王子が差し出した手を、私はゆっくりと握り返す。

「私は、お義母さまの逆鱗に触れて
しまったのです。私は何の覚えもあり
ません。なのに……なのに……!」

また泣き崩れそうになる私を、王子は
しっかと抱きしめる。

「……僕は、あなたの味方です。あなた
の虜になってしまった以上、もう僕が
あなたから離れることはありません」

「っでも……!」

「大丈夫、僕が守ってあげます」

私は、王子の胸の中で泣いた。

「……カーーット!」

ルーム長の声が響く。

私……あたしは、頬を伝う涙を拭い、
ニカっと笑った。

「小川くん、ナイス演技!」

「いやぁ……俺も、やりゃあできる!」

客席の隅で、女子の黄色い悲鳴が常時
聞こえていた。

今日ちょっとだけ、小川くんが人気な
理由がわかった気がする。

琴音ちゃんはというと……、

ルーム長の隣で、小さく拍手をしていて
くれた。

嫉妬、しちゃってなかったかな?

まあ、あたしは小川くんを好きになんて
ならないけどね!

「いやぁ、りっくんもやればできん
じゃんね!オッケー……じゃあ次、
雪島くん、いこっか」

ルーム長の言葉に、心臓がどきんと
跳ねるのを感じた。

恐る恐る雪島くんの方を見ると、精神
統一中なのか、目を閉じている。

「……雪島くん?」

声をかけると、雪島くんは目を開けた。

「……俺、小川には当然負けないつもり
だけど」

でもその目は、何だか哀しそうで。

「白馬さんが、決めることだしね」

あたしは、視線を逸らせなかった。

ソッと、雪島くんの耳元で囁く。

「あたしも……雪島くんと、やりたい」

もちろん、生半可な気持ちで王子役を
選ぶつもりはない。

本当に、場合によっては、小川くんに
なることも無きにしもあらずなのだ。

それでも、あたしは雪島くんと“白雪姫”
を、やりたい。

顔を上げると、そこには、いつもの
フワッとした笑顔の雪島くんがいた。

今回はちょっと赤いほっぺ付きだ。

「よし!じゃあ……スタート!」