所詮あんたは、その程度なのよ。


 何ひとつ言い返せない。浅ましい男。


 暗にほのめかしてやると、悠真はずるずると床に座り込んだ。

 顔を掌で覆い、何かと葛藤しているようだった。



「……このことは誰にも言うな」


 ぶるぶると震えながら、上擦った声音での要求。


 酒の上の不埒とはいえ、男としての責任放棄宣言である。
 状況的には、かなり自分勝手な言い分だ。


 とは思うものの、特に腹とかは立たなかった。
 不満もない。




「っていうか、なかったことにするわよ」


 むしろ、渡りに舟。

 こんなこと、拓真さんに知られたら人生の破滅だ。

 弟と関係を持った女。


 冗談じゃない。
 そう認識されたが最後。あの人の隣で笑う資格を永久に失ってしまう。
 それだけは絶対に避けなければ。


 幸い、相手の悠真には口止めする必要がない。
 こうなった経緯を説明しただけで、拓真さんに幻滅されるのは目に見えてる。


 兄の信用を失うこと。


 悠真が最も恐れているのは、それ。


 とても強固な保険だ。
 決して、暴落することはない。