今の時期に異動?
何か問題を起こしたわけでもないのに。
まじまじと見つめても、彼は妙に落ち着いている。どういうことなのか、サッパリわからない。
何となく、すっと背筋が寒くなるような心地がした。
「まだ本決まりってわけじゃないけど、中澤さんの強い勧めで」
鼻の頭を掻きながら、彼がはにかむ。
その表情とは裏腹に、私は漠然とした不安がよぎった。
中澤 弓生(なかざわ ゆみお)。
13号研究室の実験リーダーで、あの女の上司だ。
「ねぇ、嫌がらせじゃない?」
「え。そんなことないと思うよ」
目を丸くさせた相手の様子から、まるで中澤を警戒してないとわかる。
嫌がらせなんて、される覚えがないという顔だ。
わからないじゃない。
あの女が振られた腹いせに、あることないこと上司に吹き込んだのかも。
第一研究所なんて、国内で最初の霊素研究施設ってだけ。
研究も設備も体制も歴史があると言えば聞こえがいいけど。
年功序列型のシステムなだけに、出世の見込みはかなり薄い。
よりにもよって、何でそんな口車に乗せられるの。

