病院を出た車は、水澤先生の案内で10分くらいでアパートに着いた。
「ここに龍くんが住んでるんだぁ!」
お母さんは嬉しそうにそう言って、外来者用の駐車場に車を止めた。
水澤先生、お母さん、私は車から降りる。
「ちょっと龍くんを部屋まで連れて行って来るから、裕紀乃はここで待ってて」
さっきまで笑顔だったお母さんは真顔でそう言った。
私にはやっぱり笑顔は見せない。
「翠は仕事があるんだろ?早く仕事に行けよ」
「今日はいいの。仕事には戻らない。お腹空いてるんじゃない?何か作るよ」
お母さんはそう言って、水澤先生に腕を絡ませようとしたけど、水澤先生はそれを交わした。
「仕事に戻れよ。いいわけねぇだろ」
冷たく言い放つ水澤先生。
「龍くん?」
「あとは大倉にしてもらうから」
水澤先生はそう言って、私の方を見た。
えっ?
あまりの突然のことに私は声が出ず、目を見開いて水澤先生を見た。
「龍くん、何で?」
お母さんはそう言って、悲しそうな顔をしたけど、すぐに私の方を見てキッと睨みつけてきた。
「そういうことだから。大倉?部屋まで連れて行って?」
私を睨みつけたままのお母さんをそのまま残して、水澤先生は私の手を引っ張って、アパートの中に入った。