「ちょっと、ストーップ!」



部活の合同練習。


指揮をしていた吉川先生がいきなり大声を張り上げた。


一気にシーンとする部室。



「大倉!」



吉川先生に呼ばれて肩がビクンと揺れた。


普段は“さん”付けで呼ぶけど、吉川先生が本気で怒った時には名字の呼び捨てになる。


だから今、吉川先生は本気で怒ってる。



「はい」


「プライベートで何か悩みでもある?」


「えっ?」


「ボーとしてんじゃない!吹奏楽の演奏は、みんなで作り上げていくものなの!」


「…………はい」



昨日のことが頭から離れず、しかも幽霊副顧問のくせに今日は珍しく水澤先生がいるし、演奏に集中できなかった。



「何があったか知らないけど、演奏に集中できないのは迷惑!」



私は俯いたまま何も言えなかった。



「悪いけど外れて?」


「えっ?」



私は顔を上げて吉川先生を見た。



「外で少し頭を冷やして来なさい」


「…………はい」



私は椅子から立ち上がり、楽器を椅子に置いて部室を後にした。