『私』だけを見て欲しい

「別に俺は何も見てない。ただ、ここで居眠りしてただけだ」

胸まで貸してくれたと言うのにこの素っ気なさ。
呆れるくらいの不愛想に、返ってホッとさせられた。

紙コップの中身は極甘のミルクコーヒー。
自販機の砂糖を倍にしたような甘さ。

「…甘い…でも美味し…」

子供の頃に戻ったような感覚。
この人の前では、自分がスゴく幼く感じる。

「…美味いだろう?たまにはそんな甘い物を飲むのも大事だぞ」

当然みたいに言って笑う。

そもそもこの人は、どうしてここで居眠りなんかしてたのか。
自分のことも聞かれてないのに、理由なんか聞ける訳がない。

「…それ飲んだら売り場へ戻れ。夏物が届いてる筈だから」
「それなら…さっき届いてました。今、紗世ちゃんが検品してます…」

代わってやってくれると言ってた。
だから、なんとか頑張ってるハズ。

「紗世が⁉︎ 珍しいな…」

サボってる姿しか思い浮かばない…と呟く。
それが当たり前過ぎて、プッ…と吹き出しそうになった。

「マネージャーは…いつも何気に人のことをよく見てますよね…」

上司に対しての褒め言葉。
皮肉にしか聞こえないかもしれないけど。

「これでも一応、統括だからな…知らぬ存ぜぬという訳にはいかないだろう?」
「ですね……大変ですね…人の上に立つってことは…」

自分よりも上の人がいるって事は有難い。
責任も何も取らずにいられるから、部下はどんな事でも出来る。