『私』だけを見て欲しい

声を出さずに泣くのは難しい。
でも、辛うじて大きい声を出すのだけはガマンした…。

スカートの中からハンドタオルを取り出す。
手の汚れる仕事だからこその必需品。
こんな所で、役立つとは思わなかった。

ぐすぐす…と鼻をグズつかせて前を見た。
長椅子に寝転んでる人と目が合う。
その人とはさっき、社食で隣り合わせに座ったばかり。


(……マズい!)

とっさの判断でそう思った。
立ち上がって逃げようとする私を捕まえる。
力の強い腕で、自分の方に引き寄せた。


「逃げるな。何もしないから…」

涙で濡れた顔がワイシャツにシミを作りだしそうだというのに、黙って胸に押しつけられた。
ボロボロ…と溢れる涙が、その人の腕の中で、ゆっくりと、少しずつ…乾いていく。

涙の意味を何も聞かずに泣かせてくれる優しさに、ただ感謝の気持ちが溢れたーーー




目の前に置かれた紙コップから湯気が立ち上る。
白い煙のようなものを眺めて、ホゥ…と深い息を吐いた。

「…落ち着いたか?」

目の前にいる人に頷いた。
さっきからこの人は、何も聞かない。
普段は何かあったら言ってこいと言うのに、こんな時は何も言わないなんてズルい。

憎らしいくらいに優しい。
そう思うのは、きっと、私が可愛くないから。

「…あの…すみませんでした…とんだ失態をお見せして…」

こんな所で出くわすとは思わなかった。
山崎マネージャーは微笑んで、あえて何もなかったように振る舞った。