『私』だけを見て欲しい

「マネージャー…?」

ビックリした。
自分の気持ちが見透かされたのかと思った。

「あの…何か…?」

握られた手の感触にビクつきながら顔を見上げる。
なんだか怒ってるようにも見える。
彼の言葉使いを注意しなかったのが、気に入らなかったのかも…

「……あ…ごめん。何でもない…」

腕を放した。
握られてた感触だけが残る。
違和感があって、そこだけ妙な感じ。

「さっきの…金曜日のお礼って、何のことだ?」

聞かれた。
そりゃそうよね…と少し思う。
言いにくいから顔を歪める。
その表情を見て、マネージャーまで眉間にシワを寄せた。

「…れんや君に…飲みの時だけ彼女役して欲しいって頼まれて、引き受けたんです…秘書課のお局様に言い寄られて困ってるって言ってたから。だから…そのお礼のことだと思います」

年上でバツイチで子持ちなのにね…と、そんな気持ちで話した。

「ふぅん…」

納得してるのかしてないのか、分かりづらい返事。
マネージャーの顔を確かめるのも、なんだか気まずい。

「…らしくないな。佐久田さんがそんな役引き受けるなんて…」

マネージャーの声にハッとする。
確かにそんな役、今までの私なら引き受けなかった。

「…何かあったのか?」

心配される。
この人は以前からそう。
私が気に病むことがあると、すぐに察してくれた。

「…いいえ。何もないですよ…」

答えはいつも一緒。
マネージャーは他人。ただの上司としてしか考えてないから。