――いつも、こうしている。左利きだと普通に書くと文字が見えないし、右手だと書きづらいし、ピッチが落ちるから

 俺は彼の澄ました様子が可笑しくて、つい「クスッ」と笑った。

「しまった。空気が凍った」と思った時、周桜詩月がサッと左手を上げた。

「すみません、質問を1つ。口紅のコンセプトは何ですか? 口紅名を『ジュピター』と銘打つ意図は、全知全能の神に掛けて『究極のオンリーワン』と受け取ってよろしいですか? BGM『Jupiter』をアレンジするにあたり、何処まで崩していいのかを判断したいので」

俺に向けられていた冷たい視線が、彼に向けられる。

 声変わりし損ねた細い掠れ気味の声、だが毅然としている。

「貴方の解釈で概ね合っているわよ。春の口紅だから、プラス爽やかに万物が芽吹く生命力、新緑香るというイメージでアレンジをしてもらえればいいわ」

「ありがとうございます。承知しました」