「だな。不思議な奴だよ、周桜は。
クールなのかと思えば、ウソだろって思うほど熱い。頼りないなと思っていれば、思いもしないほど凄いことを簡単にやってのける。
知らない間に、周桜が事の中心にいる」


「変われたんだ……聖諒での2年間が、あいつを変えたんだ……郁子がな」

郁子って言葉に、胸が痛む。


「此処で、郁が周桜に『雨だれ』をリクエストした時から」


「ああ、此処で不協和音を鳴らして演奏放棄した時からな」


「周桜の中には和と洋、日本とヨーロッパが、巧く調和している」


「両親のな。才能とか素質っていうのは、親から子に引き継がれるものなんだろうけれど、それだけではダメなんだって思う。
それに、あいつが親父さん『周桜宗月』と酷似した演奏に苦しんだ、あの何年間かも必要だったんだ」


「そうだな。周桜は、いったい何処まで翔ぶんだろうな」