「ガダニーニって、周桜さんのヴァイオリンやろ。安坂さんが確か、そんな話してたんちゃう?」

昴がポツリ。


――そう、周桜くんのヴァイオリンはお母さんから譲り受けたヴァイオリンで、特殊なの。
ヴァイオリンの音色や演奏を聴いた人が自信をなくしたり調子を乱して、ちゃんと演奏できなくなるって噂があるの。
詩月くん、ガダニーニの「シレーナ」を弾く街頭のヴァイオリニストって……恐れられてるの


「ローレライみたいだな。歌声で船乗りを惑わして、船を難破させる……」

空がさらりと言った「ローレライみたい」に、背筋に冷たいものが走った。


――「ガダニーニを弾くヴァイオリニスト」は「ローレライ」だ

俺の頭の中で、導き出された文章に体が強張る。


「違う……違う!! 詩月さんは『ローレライ』なんかじゃない」

俺は空を睨み、叫んでいた。