風は囁く「君と輝きたいから」

「周桜、あの時そんなにまで悩んでいたのか」

大きな溜め息が聞こえる。


「あの言葉がなかったら、僕は音楽を諦めていた……今の僕は居なかった」

俺の知らない詩月さんの過去。

郁子さんは綺麗だけの人ではないんだなと思う。


何もかもダメだと、諦めなきゃならないほどの辛さ――俺にはわからない。

だけど、そんな辛さを希望に変えさせるほどの言葉。

詩月さんと郁子さんの間にある、見えない思いや絆を感じる。


「だから、『熟田津に』なのか」


「何だ、それ!?」


岩舘さんの低い声に「居たんだ」と思う。


「万葉集の歌、額田姫王の……『熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな』……。
緒方を見てると思い出すんだ。
『あなたの意志から希望は生まれる』という言葉と一緒に」

逞しい感じの歌だなと思う。