風は囁く「君と輝きたいから」

「緒方には何度も言われた……『あなたは音楽を心底、楽しんでいない』と。
練習室にまで入ってきて、ショパンの楽譜を取り上げられたこともある」

詩月さんの掠れた声が、ひどく沈んでいる。


「泣きながら、『どうして留学を辞退したの』訊ねられた時……君には関係ないと突っぱねた」

詩月さんは淡々と話す。
抑揚なく静かに。


「『絶望から……希望は生まれる』と英訳した、風と共に去りぬのラストシーンを……緒方は否定して、『希望はあなたの意志から生まれる』笑って言った」

安坂さんの「あっ」という声が聞こえた。


「緒方の……あの言葉に救われたんだ。
……希望を持っていいんだって……何年も自分の演奏ができなくて、留学もダメだって言われて……。
何もかもダメだと……諦めることが、当たり前みたいに思っていた……。
僕にとって、あの言葉は……光だった」