風は囁く「君と輝きたいから」

桃香さんには「詩月さんが入院してるから、様子を見てくる」とだけ伝えた。

桃香さんは「Nフィル練習の後、倒れたんですってね」と静かに頷いて、他には何も聞かず送り出してくれた。

俺が病院に着いた頃には、雨は本降りになっていた。

病室の少し開いた扉の隙間から、話し声が聞こえた。

「郁はお前の演奏のファンだから、中学生の頃からずっと」


「あの頃、緒方は……僕にとってローレライだった」

安坂さんと詩月さんの声。

詩月さんの「ローレライ」という言葉に、声が出そうになった。


「緒方みたいに、自由に弾けたら……ずっと思っていた」

いつもより掠れて弱った詩月さんの声。

詩月さんは、何度も息継ぎしながら話す。


「音楽を心から楽しんでいる、緒方の音が羨ましかった」

ざわつく気持ちを抑え、俺は息を潜める。