めくるめく恋心

学食が見えないところまで来て、漸くホッと一息つけた。

_何だかドッと疲れた。


「千里、さっきは……っ。」


突然抱きしめられて唖然となった。どうしていいか分からなくて、アワアワしてしまう。


「……連絡取ってないんじゃなかったの?」


千里の腕にグッと力が籠った。行き場のなかった手を千里の背中に回した。


「ちゃんと話すから、聞いてくれる?」

「……聞くよ、聞かせて。」


少し体を離して私の顔を見下ろす千里の顔がとても辛そうに見えた。こんな顔をさせているのは私だ。

インターハイから戻って来てお祝いして、花火大会に一緒に行って、ご飯食べに行って二人で過ごす時間ならたくさんあった。夏休み中に話すタイミングならいくらでもあったのに、話さなかったのは怖かったから。話そうとする度に声が喉に張り付いたみたいに、言葉が出てこなかった。

私たちは中庭のベンチに並んで座った。

歩いている時からつながれた手は今も離れないままだ。掌に感じる熱と汗。いつもだったら笑いながら「凄い汗だね。」とか言って二人で手をパタパタさせたりしているけど、今はこの手を離したら関係が崩れていく気がした。


「最初に言っておくけど、秋ちゃんとこそこそ連絡取ってるとか、二人で会ったりとかそんな事はしてないからね!!」


千里はズルッと背中を下に滑らせると、私の肩に頭をのせた。千里の柔らかな髪の毛が風に靡いて私の頬に触れる。そしてシャンプーの香りなのか、微かに爽やかな香りが鼻を掠める。