めくるめく恋心

電車を乗り継ぎ数十分。見慣れた懐かしい景色が見えてきた。胸がドキドキしてる。

秋(しゅう)ちゃんに会えるわけじゃない。それでも少しでも存在を感じられたらいいな。

ニューヨークに行く前までよく利用していた駅に着いた。駅の外に出て見渡すと、駅周辺のお店はほぼ変わっていなかった。スーパー、お花屋さん、美容室……どれも本当に懐かしい。新しくできているお店もちらほら。

ここでじっとしていても始まらない。行こう。

普通に歩けば10分もかからない道をゆっくり歩いた。住宅街で戸建てのお家やマンションばかり。途中公園の前を通り、足を止めた。


「毎日飽きもせず来てたな……。」


ついしみじみと声が漏れた。

バスケットゴール、当時は凄く大きく感じてたのに、今こうして改めて見るとそんな事ないなと思った。

もう暫く思い出に浸っていたいけど、今日の目的はここじゃない。ここにはまた今度ゆっくり来よう。

それから歩いて数分。目的地にたどり着いた。表札の“早瀬(はやせ)”という名前を見ただけで胸が熱くなった。


「あははははっ!!!」


隣のお家から聞こえてきた子供の笑い声にハッとなった。

_そう言えば買い手が見つかったって言ってたよね。

今は石倉(いしくら)と書かれた表札は昔は“市川”と書かれていた。この隣のお家は私が生まれ育ったお家。あの事故がなければ私はニューヨークに行く事もなく、今もこのお家に住んでた。そう思うと切なさが胸に広がった。

今更そんな事思ったって時間は戻らない。そう思うのにやっぱり今でも思わずにはいられない。