「離して下さい!! 誤解されちゃいますよ!!」

「じゃあそんな顔して笑わないでよ。 無理して笑わないで……。」

「千里、先輩……分かりました。 だから離して下さい。」


そう言うと千里先輩は直ぐに体を離してくれた。体が離れると直ぐにつながれた手。


「グラウンド走ってる時に心ちゃんが歩いてるのが見えたんだ。 俯いて何度も涙を拭ってたよね?」

「……見られてたんですね。」


すぐ隣に広がる学校のグラウンドを見てため息が漏れた。もしかしたら千里先輩の他にも見ていたかもしれない。

_恥ずかしい。


「途中で抜けちゃって大丈夫なんですか?」

「問題ないよ。 それに、気付いたらここまで走ってたんだ。 何があったの?」


千里先輩は本当に心配してくれている。そんな先輩に「秋ちゃんに彼女が居たのがショックで泣いてました。」なんて言えるわけがない。


「たいしたことじゃないんです。」

「いつも笑ってる心ちゃんが泣いてるのに、たいしたことない訳ないでしょ。 でも話したくないならもうこれ以上は聞かないよ。」

「……ごめんなさい。」


気付けば口からその言葉が漏れていた。千里先輩は「謝る必要なんてないんだよ。」と言いながら、私の涙を優しく拭ってくれた。長くてすらっとした指先は温かかった。