化粧室の鏡に映る自分を見つめて
隼人お兄ちゃんは私が悠ちゃんに恋心を抱いてたなんて知らない。
いつものように私をからかってるだけ。
陽菜、確りしなさい。
今日は大好きな二人の結婚式なんだもん。
笑顔でいるのよ。
よしっ!
頬を軽く叩いて気合いを入れ直して化粧室を出ると
「隼人お兄ちゃん!」
壁にもたれた隼人お兄ちゃんがいた。
「大丈夫か?」
「な、なにが?」
「ん、ちょっとからかいすぎたかな」
それで来てくれたの?
「大丈夫よ。からかわれて泣くような子どもは卒業したわ」
そう。 私ももう21だもん。
「そうだな。昔は涼や悠にからかわれて俺んとこへ泣きついてきてたよな『隼人お兄ちゃん、二人が苛める』って」
「ハハハ…」
そんなこともあったな。
懐かしい甘酸っぱい思い出。
「戻るか」
「うん、そうだね」
会場に戻ろうと足を進めると
「あ、あの、尾崎選手ですよね」
「はい」
「わぁ~やっぱり」
「ファンなんです」
若い女の子数人が隼人お兄ちゃんを取り囲む。
弾き出されてその光景をぼんやり見てると
「陽菜ちゃん」
「あ、悠ちゃん亜理砂先生」
「兄貴と陽菜ちゃんが戻ってこないから見に来たんだ。また兄貴に苛められてちゃ大変だからな」
おどけたように言う悠ちゃんに
「そんな心配ご無用よ。悠ちゃんは亜理砂先生の心配だけしてればいいの。ね、亜理砂先生」
「いやいや、陽菜ちゃんは俺にとっても大事な妹なんだから」
『大事な妹』
その言葉がまだ痛い。



