「ほかは何と書いてあるんだ…。飲むほどに、丸みのあるなめらかな飲み口、そしてソフトな甘みがゆっくりと広がります。山田錦の親、雄町という米の特徴である、豊な甘みと優しい酸味を楽しめるお酒です。だって…。」
彰夫は、中で唾を飲み込む音を聞いた。
「あれ、透明じゃないんだな。ああ、これが無濾過生原酒ってやつか。ほんのり色づいた景色も楽しい…。」
テルミの部屋のドアがわずかに開くとコップを持った手がにゅっと出てきた。久しぶりに見る彼女の白い肌だ。彰夫は一升瓶を傾けると、コップに半分だけ『風の森』を注いだ。コップ持った手がドアの向こうに引っ込むと、喉を鳴らして一気に飲む音のあとに、『カーッ』という酒飲みのため息が聞こえた。久しぶりの酒がテルミのからだに染み渡っているのだろう。白く滑らかな手がまた出てきた。空のコップをゆすって、酒を催促する。彰夫は今度も半分だけ注ぎながら言った。
「テルミ、なんで急にいなくなったんだ。」
部屋の中から返事はなかった。そのかわりに、また空になったコップに酒を催促する手が出てきた。今度は、彰夫はその手を握った。手はドアの奥に逃げることなく、彰夫の求めを拒むことなく動かなかった。久々に触れる彼女の肌。その白く、柔らかく、そして滑らかな肌に触れていると、肌の奥深くにある温かみが彰夫の手に伝わってくる。この暖かさは、憶えがあるぞと彰夫は思った。遥か昔に封印した記憶が蘇ってきた。そうだ、母親の手の暖かさだ。彰夫が、好美やテルミとの暮らし中で、彼女たちからおぼろげながら感じ取っていたものは、この暖かさだったような気がする。
「テルミさんが…彰夫さんといると…本来の自分じゃなくなっていくようで…嫌だと言っています。」
中から好美の声がした。彰夫は別に驚きもしなかった。
「それは、テルミだけが言っているのではなく、好美も同じだろ。」
好美からの返事はなかった。
「でも…本来の自分ってどんなんだろうね?」
彰夫は彼女の白い手を、指で優しく愛撫しながら言葉を繋げた。
「本来の自分じゃないと思っている自分が、もしかしたら本当の自分かもしれないよ。恐れないで、その時の自分を受け入れればいいんじゃないかな。」
「彰夫さん。」
「なんだい?」
「テルミさんが言うには…、自分が思い込んでいるわたしが、本当の私でないなら…。」
彰夫は、中で唾を飲み込む音を聞いた。
「あれ、透明じゃないんだな。ああ、これが無濾過生原酒ってやつか。ほんのり色づいた景色も楽しい…。」
テルミの部屋のドアがわずかに開くとコップを持った手がにゅっと出てきた。久しぶりに見る彼女の白い肌だ。彰夫は一升瓶を傾けると、コップに半分だけ『風の森』を注いだ。コップ持った手がドアの向こうに引っ込むと、喉を鳴らして一気に飲む音のあとに、『カーッ』という酒飲みのため息が聞こえた。久しぶりの酒がテルミのからだに染み渡っているのだろう。白く滑らかな手がまた出てきた。空のコップをゆすって、酒を催促する。彰夫は今度も半分だけ注ぎながら言った。
「テルミ、なんで急にいなくなったんだ。」
部屋の中から返事はなかった。そのかわりに、また空になったコップに酒を催促する手が出てきた。今度は、彰夫はその手を握った。手はドアの奥に逃げることなく、彰夫の求めを拒むことなく動かなかった。久々に触れる彼女の肌。その白く、柔らかく、そして滑らかな肌に触れていると、肌の奥深くにある温かみが彰夫の手に伝わってくる。この暖かさは、憶えがあるぞと彰夫は思った。遥か昔に封印した記憶が蘇ってきた。そうだ、母親の手の暖かさだ。彰夫が、好美やテルミとの暮らし中で、彼女たちからおぼろげながら感じ取っていたものは、この暖かさだったような気がする。
「テルミさんが…彰夫さんといると…本来の自分じゃなくなっていくようで…嫌だと言っています。」
中から好美の声がした。彰夫は別に驚きもしなかった。
「それは、テルミだけが言っているのではなく、好美も同じだろ。」
好美からの返事はなかった。
「でも…本来の自分ってどんなんだろうね?」
彰夫は彼女の白い手を、指で優しく愛撫しながら言葉を繋げた。
「本来の自分じゃないと思っている自分が、もしかしたら本当の自分かもしれないよ。恐れないで、その時の自分を受け入れればいいんじゃないかな。」
「彰夫さん。」
「なんだい?」
「テルミさんが言うには…、自分が思い込んでいるわたしが、本当の私でないなら…。」



