「すみません。私はまったくの下戸でして…。」
酒を誘われる前に、慌てて自分の事情を説明する彰夫。父親はさげすむような視線をくれて言った。
「君は飲めないのか…つまらん男だな。」
テルミの父親は、彰夫用に持ってきたお猪口を台所に投げて戻すと、手酌で飲み始めた。テルミの粗暴な言動は、父親譲りだと彰夫は思った。
「2週間ほど前に、ストーカーから逃げてきたと言ってテルミが戻ってきた。ストーカーは君か?」
「とっ、とんでもありません。自分はそんなこと…。」
「わかっているよ。普段のテルミだったら、ストーカーなんて半殺しにしているはずだ。決して逃げまわるような娘ではない。」
テルミの父親は、彰夫をちらっと一瞥すると話を繋げた。
「しかし、どうやら君から逃げてきたのは確かなようだ…。」
父親がグイッと煽ったお猪口に、彰夫は徳利を取って酒を注いだ。
「名前をまだ聞いていないが…。」
「すみません。及川彰夫といいます。」
「テルミとはどういう関係だ?」
「テルミさんとルームシェアをさせて頂いています。」
「なんだそれは…。」
「平たく言えば同じ部屋を共有して暮らしているということで…。」
「なにっ、同棲しているってことか?」
「いえ、あくまでもルームシェアです。」
「英語使えば、年寄りをごまかせると思ったら大間違いだぞ。日本語で言え。」
恐ろしい剣幕で彰夫に詰め寄る父親に、彼はテルミが短気なのも遺伝なのだと思った。言葉を間違えたら殺されかねない。慎重に言葉を選んだ。
「いわゆる…ひとつの部屋で共同生活することです。」
「それを同棲って言うんだろが。」
「いえ、そうではなくて…。」
「不愉快だから、もう説明せんでいい…。ところで、テルミとは男と女の関係なのか?」
彰夫は絶句した。こんなにダイレクトに聞いてくる父親にお目にかかったことが無い。返事の返しようが無かった。
「黙っているということは、そういうことなんだな。」
「…どう説明したらいいかわからないだけです。」
「説明はもういらないと言っただろう。イエスかノーで十分だ。」
彰夫は頭を小突かれたような気分になった。
「テルミは変わった娘だろう。」
彰夫は、この父は娘が解離性同一性障害であることを知っているのだろうかと考えた。
「確かに変わっていると思います。」
酒を誘われる前に、慌てて自分の事情を説明する彰夫。父親はさげすむような視線をくれて言った。
「君は飲めないのか…つまらん男だな。」
テルミの父親は、彰夫用に持ってきたお猪口を台所に投げて戻すと、手酌で飲み始めた。テルミの粗暴な言動は、父親譲りだと彰夫は思った。
「2週間ほど前に、ストーカーから逃げてきたと言ってテルミが戻ってきた。ストーカーは君か?」
「とっ、とんでもありません。自分はそんなこと…。」
「わかっているよ。普段のテルミだったら、ストーカーなんて半殺しにしているはずだ。決して逃げまわるような娘ではない。」
テルミの父親は、彰夫をちらっと一瞥すると話を繋げた。
「しかし、どうやら君から逃げてきたのは確かなようだ…。」
父親がグイッと煽ったお猪口に、彰夫は徳利を取って酒を注いだ。
「名前をまだ聞いていないが…。」
「すみません。及川彰夫といいます。」
「テルミとはどういう関係だ?」
「テルミさんとルームシェアをさせて頂いています。」
「なんだそれは…。」
「平たく言えば同じ部屋を共有して暮らしているということで…。」
「なにっ、同棲しているってことか?」
「いえ、あくまでもルームシェアです。」
「英語使えば、年寄りをごまかせると思ったら大間違いだぞ。日本語で言え。」
恐ろしい剣幕で彰夫に詰め寄る父親に、彼はテルミが短気なのも遺伝なのだと思った。言葉を間違えたら殺されかねない。慎重に言葉を選んだ。
「いわゆる…ひとつの部屋で共同生活することです。」
「それを同棲って言うんだろが。」
「いえ、そうではなくて…。」
「不愉快だから、もう説明せんでいい…。ところで、テルミとは男と女の関係なのか?」
彰夫は絶句した。こんなにダイレクトに聞いてくる父親にお目にかかったことが無い。返事の返しようが無かった。
「黙っているということは、そういうことなんだな。」
「…どう説明したらいいかわからないだけです。」
「説明はもういらないと言っただろう。イエスかノーで十分だ。」
彰夫は頭を小突かれたような気分になった。
「テルミは変わった娘だろう。」
彰夫は、この父は娘が解離性同一性障害であることを知っているのだろうかと考えた。
「確かに変わっていると思います。」



