彰夫は杉浦教授の話しをひとことも漏らさず記憶し、理解しようと懸命に耳を傾けた。学生時代に同じ気持ちで講義を受けていたなら、彼も今頃は準教授になっていただろう。
「この四天王を俯瞰して見てごらん。四天王の各像を繋げている、スピリチアルなエネルギーの紐が見えないだろうか。」
杉浦教授は彰夫に向き合った。
「基本人格であろうと、交代人格であろうと関係ない。テルミさんも好美さんも、その名前が示す個性は、ひとつのディバイスにしか過ぎない。決してアイデンティティーを表すものではない。そう思わないかい。僕は彼女たちを繋げる目に見えない唯一のものが、彰夫君との関わりを求めたんだと思えて仕方が無い。『目に見えない唯一のもの』の存在を科学的に証明できなくとも、及川君はおぼろげながらにもそれを感じ取ってはいるはずだ。彼女たちに何ができるかなどと高邁なことは考えず、それが君にとってどういう意味を持っているのか、それは失うことのできない大切なものなのかどうか、恐れずにもう一度会って確かめてみてはどうだい。」
彰夫は、高井家の表木戸の前に再び立っていた。呼び鈴を鳴らすかどうか、最後のところで躊躇しているのだ。杉浦教授は、もう一度会って確認しろと言うが、実際に好美やテルミの前に立って、どんな感情が湧き出るのかまったく予想ができなかった。嫌悪や恐怖だったらどうするんだ。顔だけ見て逃げ帰るのか。
「また君か…。」
彰夫の背後で男の声がした。振り返ってみるとその声の主はテルミの父であった。彰夫は腹を決めた。
「テルミさんは、お戻りでしょうか?」
「だったらどうだと言うのだ?」
「お会いしたいのですが…。」
テルミの父は、彰夫の頭のてっぺんから足のつま先まで、時間をかけて眺めまわすと、ため息をつきながら言った。
「たしかにテルミは帰ってきているが、今は家に居ない。」
「そうですか…では出直してまいります。」
「ちょっと待ってくれ。少し話をしないか。立ち話もなんだから、家に入りたまえ。」
彰夫は、しばらく黙ってテルミの父の真意を推し量ったが、年上から乞われているのに、辞して帰るのはあまりにも失礼だと考え直しテルミの父の申し出に従った。テルミの父は彰夫を玄関から家に入れず、庭に回って縁側に案内した。彰夫を縁側に座らせて、家の奥に引っ込む。しばらくして小盆にとっくりとお猪口を載せて戻ってきた。
「この四天王を俯瞰して見てごらん。四天王の各像を繋げている、スピリチアルなエネルギーの紐が見えないだろうか。」
杉浦教授は彰夫に向き合った。
「基本人格であろうと、交代人格であろうと関係ない。テルミさんも好美さんも、その名前が示す個性は、ひとつのディバイスにしか過ぎない。決してアイデンティティーを表すものではない。そう思わないかい。僕は彼女たちを繋げる目に見えない唯一のものが、彰夫君との関わりを求めたんだと思えて仕方が無い。『目に見えない唯一のもの』の存在を科学的に証明できなくとも、及川君はおぼろげながらにもそれを感じ取ってはいるはずだ。彼女たちに何ができるかなどと高邁なことは考えず、それが君にとってどういう意味を持っているのか、それは失うことのできない大切なものなのかどうか、恐れずにもう一度会って確かめてみてはどうだい。」
彰夫は、高井家の表木戸の前に再び立っていた。呼び鈴を鳴らすかどうか、最後のところで躊躇しているのだ。杉浦教授は、もう一度会って確認しろと言うが、実際に好美やテルミの前に立って、どんな感情が湧き出るのかまったく予想ができなかった。嫌悪や恐怖だったらどうするんだ。顔だけ見て逃げ帰るのか。
「また君か…。」
彰夫の背後で男の声がした。振り返ってみるとその声の主はテルミの父であった。彰夫は腹を決めた。
「テルミさんは、お戻りでしょうか?」
「だったらどうだと言うのだ?」
「お会いしたいのですが…。」
テルミの父は、彰夫の頭のてっぺんから足のつま先まで、時間をかけて眺めまわすと、ため息をつきながら言った。
「たしかにテルミは帰ってきているが、今は家に居ない。」
「そうですか…では出直してまいります。」
「ちょっと待ってくれ。少し話をしないか。立ち話もなんだから、家に入りたまえ。」
彰夫は、しばらく黙ってテルミの父の真意を推し量ったが、年上から乞われているのに、辞して帰るのはあまりにも失礼だと考え直しテルミの父の申し出に従った。テルミの父は彰夫を玄関から家に入れず、庭に回って縁側に案内した。彰夫を縁側に座らせて、家の奥に引っ込む。しばらくして小盆にとっくりとお猪口を載せて戻ってきた。



