アキオ・トライシクル~心理学入門編~

 彰夫は、好美を抱き上げてリビングのソファーに寝かせた。
「あーあ、あとかたずけを、手伝ってもらえなくなっちゃったじゃない。」
「いいよ、姉貴。俺が手伝うから。」
 彰夫は、好美の頭の下にクッションを置き、毛布を掛けると、信子に従って台所へ向かう。酒の相手も居なくなり、ひとりになった克彦はつまらなそうにグラスを口に運び、このまま中途半端に終わるくらいなら、この後キャバクラでも行こうかと考えていた。
「オイちゃん。あんたの家には日本酒は無いの?」
 聞き覚えのある女性の声を聞いて、克彦のグラスの手が止まった。顔をあげると、目の前に毛布をはおったテルミが、グラスを差し出して悪戯っぽく笑っている。
「テルミ?」
「早く探してきなさいよ。」
「好美さんはどこへ?」
「あの女のことなんかどうでもいいの。早くちょうだいよ!」
 事態の把握できない克彦は、テルミに言われるがままに、酒があるラックから、日本酒の一升瓶を取りだしテルミのグラスに注いだ。テルミは最初の一杯目を、喉を鳴らしながら一気に飲み干した。
「カーッ。やっぱり他人の家の酒はうまいわね。もう一杯!」
 テルミの飲みっぷりに押されて、差し出されたグラスに日本酒を注ぐ。なぜ突然ここにテルミが現れるのか。よく見れば、さっきまで好美が来ていた服を身につけているが、顔と目つきは別人だ。テルミ以外の誰でもない。
「いつまでハトみたいな顔してんのよ。」
「だって…。」
「そんな顔見せられたら酒がまずくなるわ。」
「テルミがいきなり現れて…、ソファーにいたはずの好美さんが消えて…。もしかして知らない間に入れ替わった?」
「なに馬鹿なこと言ってるのよ。酔ってるの?」
「俺もしかして、飲みすぎた?」
「飲み過ぎどころか、まだまだ足りないわよ。ほら、乾杯するから一気に飲んで。」
 克彦は、大学生以来の焼酎の一気飲みをテルミから強いられた。テルミの、イッキ、イッキの声援に押されグラスを飲み干すと、混乱する頭の中で、克彦の酔いが一気に爆発した。

「リビングが騒がしいわね…。好美さん、起きたのかしら。」
 彰夫がリビングからの声に耳をすませた。その声に居るはずのない女の声を聞き分けると愕然とした。
「ちょっと、様子見て来るから…。」