「ごめん、詩織。」


先程私の入学式が行われた高校の中庭にある大きな桜の下。
私と私の恋人は向かい合っていた
柔らかな風が吹いて、私と彼の髪を優しく揺らす。
そんな中彼が言った一言に、私の心臓が大きく音を立てた。


「ごめんって…どうしたの、紘君。」



私は首を傾げて、わからないふりをする

ほんとは、紘君が何を言いたいかなんてわかっているのに。



その先の言葉を聞きたくなくて、逃げ出したくてたまらない。

でも、逃げちゃいけない。
向き合う時が来たのだと、ぐっと足に力を入れる、


「俺と…別れてください。…好きな人がいるんだ。」


やがて、真っ直ぐに目を見て告げられた言葉に目を伏せる。


…ついにこの日が来ちゃったか


なら、私がいう言葉はもう決まってる。
震えそうになるのを抑えて、私はこう言うのだ。



「わかった。…今までありがとう、紘君。」










紘君のいなくなった中庭で、私は小さく呟いた。


「わかってたはず、なんだけどなぁ」



私と紘君は幼馴染で
一歳上の彼に、私は恋をした。


そうして告白して、付き合うようになって。一緒に過ごすうちに、
不意に気付いてしまった


これが、一方通行の恋であること。



紘君は優しかったから、私の我儘に応えてくれた
私が人より少し体が弱かったのもあるかもしれない


とにかく、私は彼が離れていくことを知っていたし、覚悟を少しずつしてきた。



なのにどうして


涙が溢れてくるのが止められないのだろう。




満開の桜の下で、優しく吹く春風を感じながら、私はただ涙を流していた。