取り出したのは折りたたみ傘。


それを彼女に差し出すと、彼女は折りたたみ傘と私を何度も見比べた。

「良かったら使って?」

「え、でも王子…」


「私は大丈夫。もう1つあるから。
女の子だから、万が一濡れて風邪でも引いてしまったら大変だからね」


にっこりと微笑むと彼女は耳まで赤くしながら俯いた。


「あ、ありがとうございます」


「どういたしまして。
…待たせてごめん。じゃあ、帰ろうか星加」


大きな傘に星加を入れると、雨の中へと足を踏み出した。








「王子…、庵治、陽さん…」

彼女が後ろ姿を見送りながら、
そうぽつりと呟いたのを私は知らない。