「奈々、いいよ。早くしようよ」


「わかってるよ」


急かす亜由美を宥めるように、あたしは陽菜の机に素早く手を入れた。

あたしの手に触れたのは、整理整頓されて入っている教科書とノート。

それを取り出すと、乱雑に机の上にばらまいた。


「マジックは?」


「油性を用意してるよ」


あたしの問い掛けに、亜由美がすかさず答えた。

亜由美もよっぽど平凡な毎日に嫌気がさしているのだろう。

この話を持ちかけた時も、真っ先に飛び付いてきたのは亜由美だった。


「早くあたしにもマジック貸してよ」


亜由美は言い終わる前に、千春が持っていた3本のマジックのうちの1本を奪うと、机の1番上に置いてあった数学の教科書を手に取った。


「何て書こうかなぁ〜」


マジックの蓋を外しながら楽しそうに考えている姿は、誕生日に「欲しい物を買ってあげるよ。何がいい?」と言われた子供を連想させる。