(大丈夫。もう少しだけの辛抱。)
もう少しってどのくらい?
(だって約束したもん。)
本当に?
(楽しみにしてるって)
誰が?
(……誰、が?)
下を向いていた私の瞳から、頬を伝わずに真っ直ぐに浴衣へ涙が落ちた。
「ぅ…っ、ぁあ、ぁ…」
なんて滑稽。なんて、惨め。
初デート、なんて浮かれていた自分が馬鹿らしくなった。
本当に、自分は馬鹿だ。
抑えきれなくなり溢れてきた自分の情けない声を聞いて余計に悲しくなり、身を固くして隠れるように泣いた。
そんなことをしなくても、きっと誰の目にもとまらないような存在だとわかっている。
私だけずっとこのままなのかもしれないと、そう思った時
「っ「見つけたッ…」
手を引かれた。
一瞬で身体ごと引き上げられて、フラつきながらもなんとか自分の足で立つ。
目の前の彼は、大きく方を上下させて呼吸を繰り返しながら、私を真っ直ぐに見つめてくる。
握り締められた手に伝わる体温は、じんわりと温もりを私に与えてくれた。
驚いて引っ込んだ涙は、彼の瞳を見つめ返すとまた零れ落ちた。
「何やってんだよ」
溜息混じりに言ってくるのが少し気にくわないけれど、本気で心配してくれていたのが痛いほど伝わってくる。
私は真っ直ぐに、正面に立っている彼の胸に倒れこんだ。
「…なんで格好悪い時にばっか…」
いつもそうだ。
私が辛い時にばかり、苦しんでいる時にばかり湊が温もりを与えてくれる。
だからなのかもしれない。
私が彼の前でなら自然と素直になれるのは。
彼の服に涙が染みこんでいく。
背中に廻された腕は確かに私を支えてくれていて、今の私はそれ無しでは形を保てなかった。
カラン、コロン、と鳴りながら音が通り過ぎていく。
歩き出す時に僅かに後ろ髪を引かれたけれど、私は振り向きもしなかった。
泣き止んでからしばらく経っても、彼は私の手を離さずにいてくれた。
耳に触れていた髪飾りの感覚がわからなくなるほど、私の意識は彼と繋っている一部に向いていた。
二人で歩く祭りの人混みの中は光に溢れていて、繋いでいる彼の手を私は僅かな力で握り返すことを繰り返した。
そうしていないと、また一人で闇の中へ戻ってしまう気がしたから。
けれど私が彼と同じ力で握り返せないと、彼も私もわかっていた。
それでも彼は黙って私の手を引いてくれる。
幼い頃の面影を重ねるとピタリと当てはまる彼の姿に、私は酷く安堵した。