窒息しそうなほど苦しい。


このまま沈みながら消えられるなら、最後の一息に吐いた水泡の中に残るのはどんな感情なんだろう。


そう思いながら肺から最後に残った一息を吐こうとした瞬間、抱き締められた。


強くもなく、弱くもなく、ただ包み込むように。


咄嗟に吸い込んだ空気は彼女の香りに満ちていた。


「ふゆ…?なんで‥…」


苦しかったからか、驚いたからか、嬉しかったからかわからない。


わからないけれど、私の瞳からは涙が零れた。


「春が呼んでる気がしたから。」


落ち着けるように背中を擦る彼女の手。


…自惚れてしまう。


ずっと縋り付いていたい衝動を堪えて、私は自ら彼女から身体を離した。


背中に回っていた腕が体育座りしている私の太腿まで滑るように動く。


幸福感はあるのに気持ちが落ち着かない。


押し潰されそうな感覚が取れなくて、何度も何度も浅く息をする。


鳴りながら空気を通す喉が焼けるように傷んだ。


「春」


生理的に溢れ出てきた涙で滲む視界に彼女がいる。


色素の薄い彼女の瞳に今映っているのは自分なのだろうか。


暗い日陰の中で、彼女だけが白く浮かび上がって見える。


耳を伝って顎の方へきた手に私は上を向かされた。


交わる視線の距離が近い。


彼女がはく息を私が吸い込み、私がはく息を彼女が吸い込む。


生暖かい空気。


その空気を消すように近づいてきた彼女の唇は、私のそれに触れる寸前で止まった。


何が起こるわけでもなかったこの時間、私は思い知らされた。


今の私を生かすのも殺すのも彼女次第だ、と。


立ち去る足音が遠く聞こえた。