宝物を見つけた夏休み ~Dear アタシ~

グラスを持ち,板張りの明るい廊下を歩き,チカのいる縁側のある和室へと入った。
縁側続きの六畳間と八畳間を遮る襖は開け放たれている。
チカは大きな一本の木から作られたであろう深い茶色の座卓がある部屋で,何をする訳でもなく,立ち尽くしていた。
(あちゃ―!大丈夫なんかいなぁ―。この子。)
そんな様子のチカの前に行くとカズマは,すでに汗をかきはじめているグラスをチカの顔の前に突出した。
『えっ…』
ぼーっと,していて驚いたチカは,
『座って飲まへん?』
明るい笑顔のカズマにうながされ,冷たい麦茶入りのグラスを持ち,座卓に座った。
『あち―!幾ら山が近いとは言え昼の暑さはたまらんわっ!』
そう言って,カズマは扇風機のスイッチを入れ,麦茶を飲み干した。
『麦茶,ありがとうね。えっ~と,カズマ君。』
チカも麦茶を半分ばかし飲むと,ランニングに下はジャージ姿で向かいに座るカズマに話しかけた。
『カズマで良いよ。俺,中2。
アンタのほうが年上。』
『へぇ~!カズマは中2なんだ!
妹のリナと一緒だね。なんか,リナよりしっかりしてるカンジだけど。』
少し,笑顔を見せチカにカズマも安心し,
『おっ!アンタ笑った方が美人やん。
もっと,笑い。』
と,軽いカンジで語りかけた。
『えっ!そうかなぁ~,ありがとね。』
美人などと,褒められたのは,初めてのチカは照れながら真剣に御礼を言ったのだが,
『…ごめん。今のお世辞やねん。
アンタ,おもしろいわぁ!』と,カズマに一笑されるのだった。
(うわ~,やっぱりこいつはムカつくっ!)
『アンタ東京ディズニ―ランドとか行ったりするん?
やっぱ,近かったら,よく行くん?』
急に変わった話しに,驚きながらも,
『えぇ~っと,そうだね。お金結構かかるから一年で一度か二度行ってるだけだよ。
小さい頃は家族と。ほんで,今は友達とかな。』
『やっぱ,おもろい?
ネズミの耳付けたりするんやろ?』
『そうだよ!耳つけたりするよ~!
女の子や子どもなら,間違いなく楽しいよ。』
『あっ,あと,カップルもね。』
『…俺も,今は絶対嫌や。と,思ってても,行ったら耳つけてまうんやろなぁ―。』
真剣な顔で,腕組みしてカズマは呟いた。
『アハハッ!何その顔。そんなに,耳が気になるの。』