『あっ~最悪!』(本当なら私は今頃高校1年生の夏休みを満喫していたはずなのに!)
そんな怒号を声と心で発している少女の名は鈴木チカ16歳。美容室に行かないまま伸びてきたであろう薄茶色のボブヘアーを無理矢理後ろでお団子ヘアーに束ねスポーツブラにキャミソールに薄いデニム地のサロペット姿のチカがいる場所は縁側である。
あぐらをかいた姿勢のまま裸足の足をバタバタさせチカは心の中で溜め息を一つ,深くついた。
(はぁ~,自業自得なんだろうけどさっ…)
チカの目の前に広がるのは山の裾に広がるのどかな田園地帯。チカが今居る古民家の縁側の後ろにもすぐ山が見える。
(トトロにでてくる景色みたいだよなぁ~。)
チカの心が落ち込んでいなければ,この景色もさぞ美しく眩しく見えたに違いないだろう。しかし深い緑の山々も夏野菜がすくすく育つ畑もこれから黄金に輝くであろう水田の稲穂も虫や鳥のさえずりもチカの心を動かす事はなかった。

『ただいま―!チカいるかい?』
朝のうちから何もせず縁側でゴロゴロしていたチカだが祖母の声がしたので,ゆっくり身体を起こして畳の部屋を抜けて広い土間のある玄関へと向かっていった。
『おかえり。暑いし出掛けるとこもないし居るにきまってんじゃん。』
『ははっそうやね。チカには知り合いもおらんしなぁ。』
優しく笑う60代中盤の婦人。彼女はチカの父親の母でありチカにとっては祖母にあたる鈴木ハナ子である。中肉中背であるが背中も真直ぐし白髪が少ないせいか年寄り若く見えるのが自慢のハナ子である。野良仕事着に大きな帽子をかぶったハナ子が背中に背負っている籠には今畑で収穫してきたカボチャやトマトや胡瓜が入っていた。
『ハナ子バァ。荷物持つから早くお昼ご飯にしようよ。』そう言うとチカはハナ子の肩から籠を抜き取り,抱っこし台所の方へと歩きだした。
『そうやねぇ。そうしよう。じゃ,私は着替えてくるから台所に野菜置いといてね』
肩からかけた手ぬぐいで汗を一拭きするとハナ子も玄関で靴を脱ぎチカに続き部屋に入って行った。

台所には大きなキッチンがありダイニングテーブルもあるのだが風通しがよくないので二人は縁側のある和室で昼食の素麺を食べることにした。チカは自分が切ったトマトをパクリッと一口食べると,
『美味しい~!ハナ子バァのトマトは美味いっ!』と