「あのっ、アラタさん…」

「うん?」

「……いえ、なんでもありません…」


怒らせてしまったかなと思ったけれど、そんな事は無いのだとすぐに分かった。キョトンとして首を傾げるアラタさんは、本当になんとも思っていない様だったから。

…そうだよね、勝手に罪悪感を抱いてるのは私で、アラタさんからしたら何事も無く終えた案件なんだから、別に怒らなきゃならない理由なんて一つも無い。

じゃあ、なんで会話が無かったのだろう。また点滴の時のように変に気を使わせてしまったのだろうか。だとしたら私からもっと声をかけていった方が良いのかも…


「あ、アラタさんっ」

「うん。何?」

「えっと、ここは…そうだ。着いたってここは…え、駅?」


改めて辺りを見渡してみると、今私達が居るのは駅の改札を出た先の、広場に当たる場所だと分かった。夕方も過ぎてすっかり暗くなった時間。制服の学生やスーツのサラリーマンなんかがゴタゴタと改札ですれ違っている。


「うん、駅。僕は見えて無いからあんまり大きな声で話さない方が良いかもね」

「! そ、そうですね…」


そうか、アラタさんは死神だから姿が見え無いのだ。だから今、普通の人達から見たら私は一人でここに立っている訳で、アラタさんと会話をしていたとしても、周りの人から見たらただの私の大きな独り言状態な訳だ。

だからさっきから話しかけてこなかったのかもしれない。私が一人で話す変な人にならないように配慮してくれたのだ。アラタさんは本当に気が回る人で、尊敬する事ばかりだ。