ー気が付くと、目の前に川が流れていた。
小さい頃よく遊んだ、華ヶ川だ。
ふと自分の手を見たらー
しわ一つない、すべすべしたきれいな手があった。
水面に顔をうつしてみると、そこには14歳くらいの私がうつっていた。
ーそうか。これが「三途の川」なのかな。
これを渡れば、私の人生が完結するんだ。

既に裸足になっていた、少し筋肉質なそれを水の中に入れた、その時。
「奈子ちゃん」
という聞き慣れた声と共に、背中をポンと軽く叩かれた。
長年一緒に暮らしてきた、主人だった。
でも、逝く直前のおじいちゃんの姿ではなくて、
「この人になら、私の人生を預けられる」
と確信したときの、働き盛りの若々しい姿。
そう言えば、学生の頃、聞いたことがある。
“女性は、初めての男に抱き抱えられて三途の川を渡る”ってー。