三十路バンドギャルの憧憬邪心LOVE Grail

そして、時は二月。

六畳間に置いた炬燵に足を突っ込んで仰向けに転がる。

このまま何もない人生を送るの、絶対に御免だ。

いいか、諸君、既に終身雇用制度は崩壊したのだ。

国は、会社は、昔のように我々を守ってはくれないのだ。

いつ裏切られるかわからぬ心無い世界で、正常位的にOLや洋服屋のバイトなどしていても圧迫された生活に耐えきれず、女なら一年も経てば風俗嬢に転身する。


鮮やかに、月に代わってオシオキするセーラー服の美少女戦士の変身ように。

裸になってコスプレという流れもそのままに。

また、飲食系ブラック企業の正社員で生きていくなど生きる屍も同然。

社畜というより、まるでゾンビだ。

小泉政権以後、我々は痛みに耐えることを再認識させられた。

全てを政治と社会のせいにしてきた時代は幕を閉じ、今や自らで自身を守る時代へと移り変わったのだ。

だからこそ私は、自分でやらなきゃ、このままじゃ終わらないわよ、などと意気込みながら炬燵の中で温めたパンティを穿くのだ。


ノーパンで炬燵、これが私の至福なのだった。


私は、母のようにはなりたくない。

売れないコロッケを毎日作る母のように。

一流大手家電メーカーに勤務していた父が急に独立をすると言い出し、それが大成功でもすりゃ申し分なしだが、まさか売れないコロッケ屋の主人になるとは母も想像しなかっただろうに。


男なら天下を取る秀吉の手相だと占い師に言われた母も、今やミンチ肉を捏ねる専門家である。

母の顔には、まるで悲痛を訴えかけるかのような長年の苦労の皺が刻まれている。

母はよくコロッケをテーブルに並べながら、「このコロッケがお金だったらねぇ。見方によっては小判に見えるわよねぇ」などと現実と空想の狭間を彷徨っているかのような台詞を愚痴っぽく言っていた。


彼女も若かりし頃は壮大な恋愛劇を渇望する処女であったであろう。