三十路バンドギャルの憧憬邪心LOVE Grail

客でなければ誰でもいい。

目の前にいるのが男なら、どんなやつだって付き合ってしまえる。

まぁ、極論だけれども。

人を好きになる純真さを失っている、否、忘れているのを知りながら、棺に入り深遠の眠りにつく血の枯れたヴァンパイアのような干物女になってしまう未来を変えようと無理に恋をしようとしている憐れな自分がいる。


純白の心で甘美な恋をすることができなくなっている。誰にも、魔神メドゴラスにも、私の氷結した情熱を再び動かすことはできないだろう。


――などと思っていたが。


翌日、物件見学にやってきた男に惚れてしまうことになった。

凍てついた恋心は地獄の業火よろしく燃え上がった。

男の名は洋祐といった。

二十五歳でモデルになれそうな外見。

誰もが見学の時点で拒否した三十路女強制同居パック物件を見ても動揺せず、ものの数秒で入居を決めてしまう勇気もある。

ただ一つ惜しむらくは、どうやら彼、多田野洋祐には金がない、ということだった。

現に一週間後に来た引越センターのトラックには、小さな衣装ケースとパソコンが一台あっただけだった。

その日、引っ越しの手伝い、といってもスペースの確保に家具を移動させながら軽く話した折にも、彼は確かに言っていた。

私が、「親睦もかねて今夜さ、飲みにでもいかない? 引っ越し祝い」と言えば、「二円しかないんで、すみません」とジーンズから汗ばんだ手で取り出した二円を見せてくれた。